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2011年9月17日 (土)

ふりむいた風(3)

Kくんとの淡い初恋の思い出は、桃子の家の掃除をしているところから、彼のノートを見つけるところから始まっている。高校時代の彼女にとって、Kくんは過ぎ去った風に過ぎなかった。けれど、彼が転校生として会いに来た時、それは現実の進行形の風に変わっていった。そして、いよいよ彼の正体が桃子に知れるとなったとき、初恋は、彼の死によって叶わなくなってしまう。

初恋の終局は、彼の死という形をとることによって、桃子のこころの中では永遠の想いとなってしまった。それは、現実の彼がそれ以上成長もがっかりする機会もないまま、桃子の中で時を止めたまま美化されるからだともいえる。美化されるということは、いやがおうでも、自分のこころの中にとどまることを意味する。それまで無意識だった自分の異性の側面が浮かび上がってくる。最初は、初恋の彼の姿に写し取られていた心の異性の側面が、彼の死によって桃子の内面にいやおうもなく引き戻されてしまう。そうして、彼はまさにその思い出とともに、永遠に桃子のこころの一部になってしまったのだと思う。

「風はいってしまった風はもう2度ともどってきはしない耳もとを通りすぎたときの髪を誘ったときのあの涼しくさわやかな感じはいつまでも残るのにそれがたとえどんなに昔でも

記憶の扉を開きさえすればいつでもあの感じはよみがえってくるのに

それなのに風は空にまぎれて2度と

帰ってきはしない

現実の彼はもういない、桃子にはその風がまた吹いてくれることを祈る。なぜなら、また風がふりむくことがなかったら、桃子はこの先どんな異性との出会いがあったとしても、心を閉ざされっぱなしになってしまうだろうから。まさに純愛とは、ただ自分にだけ吹くひとつの風、その感触を頼りに、どこまでも願わくばもう一度「振り向いて欲しい」と思う。そしてそれはふだんの、日常の私たちには届かない世界なのかもしれない。、私たちはいつも日常の雑事に追われて、機械的に生きている、いや生活している部分が多いから、当たり前のことに感謝する気持ちをどうしても忘れ勝ちになってしまう。そうやって、日常に埋もれ、新鮮な感覚を研ぎ澄ますことを怠っていると、時たま吹いてくる暖かな風、なじみのある風の感触をことさら気に留めるでもなく、受け流してしまう。

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コメント


耳もとを通りすぎたときの髪を誘ったときのあの涼しく
さわやかな感じはいつまでも残るのに


記憶だけが残って…

切ないですね


ありがとうございます

投稿: ponsun | 2011年9月19日 (月) 07時48分

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